空中線と電磁波概説 (3) 

『遠方界と近傍界』

11 July, 2001.


  1. フラウンホーファー(Fraumhofer)とフレネル(Fresnel)

    遠方界・近傍界という言葉を使えば、それは電磁波だけの話ではなくなる。音であれ光であれ、波動の性質を持つものにはすべて同様の概念を用いることができる。

    近傍界と遠方界の違いを端的に言えば、観測点の波動が波動の元となる場所 (波源) から遠いか近いか、それだけである。ただし物理学的には数式でその界領域の区別がなされている。

    遠方界と近傍界について語る前に、フラウンホーファー(Fraumhofer)とフレネル(Fresnel)、この二人について少しだけ話をする。

    フラウンホーファー(Fraumhofer, 1787-1826)はドイツの科学者で、父はガラス磨きの職人だった。ナトリウムの2本のD線は、彼が父の仕事の手伝いをしているうちに発見したものであった。彼の持つガラス製造技術はピカ一で、それゆえに彼は大きな業績を遺している。太陽光をプリズムに通して見たとき、その中に多くの暗線(フラウンホーファー線と呼ばれる)が存在していることを発見したのである。暗線はそれを吸収する物質の存在を示している。とすれば、恒星や星雲なども同じようにプリズムなどで分光して見れば、その天体がどんな物質から構成されているかを知ることができる。この分野の学問を天体分光学といい、彼の研究はそのさきがけである。

    フラウンホーファーは他にも光の回折や干渉に関する研究を行っており、光源や観測点がレンズなどの回折物体から充分遠い場合の回折は『フラウンホーファー回折』と呼ばれている。また電磁波を含む波動における遠方界領域をフラウンホーファー領域とも呼ぶ。

    一方『フレネル領域』は上記のフラウンホーファー領域より波源に近い近傍界領域のもう一つの呼び方である。

    そのフレネル(Fresnel, 1788-1827)であるが、フランスの土木技師出身の科学者である。生年・没年ともフラウンホーファーとちょうど一年遅いというのことに何か因縁めいたものを感じなくもない。彼は光の回折を波動の干渉から説明し、光も波動理論で説明できることを主張した。波源または観測点が回折物体から有限の距離にある回折を『フレネル回折』という。

    回折格子の隣り合う溝(刻線)の間隔(格子定数)をd、入射角をi、波長をλとすると、

    d(sin i -sin θ)=mλ

    となるθの方向で回折光は極大となる。なおmは回折次数といい、m=0, ±1, ±2…の整数値をとる。(右図参照。なお図ではi=0 (垂直入射)としている。)

  2. 遠方界と近傍界の境界

    アンテナなどの波源からの距離によって、観測点における電磁界の性質が違う。図は開口面アンテナにおける電界分布の例であるが、アンテナの開口面に近い場所では(a), (b)を見ればわかる通り距離Rによって電界分布の形が異なる。ところがある距離以上波源から離れると、(c)のように距離に関係なく電界分布が一つの形に決まる。

    (a), (b)のような距離における電磁界領域を近傍界領域(フレネル領域)といい、(c)となるような距離の電磁界領域を遠方界領域(フラウンホーファー領域)という。

    波源が微小ダイポールアンテナであれば、第二回の結論より、遠方界では

    E=(j60πI(ω)e-j2πr/λl)/(λr)sinθ

    という電界の式になる。これをより簡単に記述すると

    E=D(θ,ψ)・e-j2πr/λ/r

    と書くことができる。ここでD(θ,ψ)は指向性関数という。この関数の詳細は次回に譲る。上の式をもう少し詳しく見て行くと、まずθおよびψという方向を示すパラメータからなるDという関数と、e-j2πr/λ/r という等半径面では同じ絶対値を示す関数との積になっている。喩えていえば、等電界強度という地球の球殻の上に、Dという関数で値づけられた山や谷や海溝が乗っかっていると思えば良い。

    遠方界では第二回の結論より、電界と磁界が直交している。波のエネルギー密度ベクトルSは電界と磁界の外積、すなわち

    S=E×H

    であるので、波のエネルギーは波源から球状に外に向って放射することになる。ゆえにこの遠方電磁界のことを放射界とも呼ばれる。ところがr-2, -3の電界・磁界成分は互いに直交しないので、エネルギーは波源から放射しないため、エネルギーは伝搬せず、ある閉じた空間の中で収支してしまうことになる。もちろん、その閉じた空間に別の導体などがあればそれに対しエネルギーの授受は行われる。いってみれば、エネルギーが閉じた空間の中しかやりとりされない領域が近傍界といっても良い。

    実際にアンテナを扱う場合、この遠方界と近傍界の境界の目安を表す数式がないと不便であるが、幸いなことにそれは存在し、

    r=2(D1+D2)2

    で、これより距離rが大きいと遠方界、小さいと近傍界とみなす。ここでD1は波源の開口寸法(最大の大きさと考えて良い)、D2は観測のためのセンサないしはアンテナの寸法である。ただしD1は波長λより大きいものとする。


参考文献
1. アンテナ工学ハンドブック, 電子情報通信学会編, オーム社, 1980.

2. 片山, 量子力学の世界, 講談社ブルーバックスB101, 講談社, 1967.


第四回 (アンテナの指向性と利得) につづく

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