『アンテナの指向性と利得』
第三回において、アンテナからの遠方界電界、すなわち放射電界は以下のような式で表現できることを示した。
上式の e-j2πr/λ/r という項は、アンテナ(波源)から等距離rの球殻上における電界の時間変化のみを表しており、もし指向性関数Dが球殻上のあらゆる場所で1であれば、これはどの方向にも均一に電界が放射していることになる。
指向性関数Dはアンテナによって決まる関数であり、アンテナからの電磁界は固有の方向特性を持つ。この方向特性を放射指向性という。
放射指向性を方向に対する強度という形で図示したものを放射パターンと呼ぶ。図の例は微小ダイポールアンテナの、アンテナエレメント方向(E面という) の電界の放射パターンであり、真円二つの8の字を描いている。電界についての放射パターンを特に電界パターンといい、電力について描けば電力パターンという呼び名になる。
微小ダイポールアンテナのエレメントに垂直な方向(H面)の電界パターンは均一(円形)である。ゆえにこのアンテナの電界パターンを三次元的に図示すると、『孔の部分がないドーナツ』の形になる。
半波長ダイポールアンテナのE面電界パターンは、真円8の字よりもう少し『痩せた』8の字となる。
放射パターンの形の中には特別な呼称を持っているものがある。
まず方向特性がどの方向にも全く一様、すなわちD=1なものを等方性(isotropic)または無指向性という。またある特定の平面のみ一様な方向性をもつものを全指向性(omnidirectional)という。すなわち等方性は全ての平面に対して全指向性、とも言える。全指向性を無指向性と言う場合があるので、『等方性』という術語を使えば誤解を避けられる。
また図のように一方方向に強い放射パターンを持つものを単一指向性という。アンテナの前後の方向に同じように強いパターンがある場合を双指向性ということもある。例えばTVの受信などでよく用いられる八木宇田アンテナは単一指向性に近い放射パターンを持つ。その理由は、映像のゴーストの原因となる、ビルなどの高層建築物や山などからの反射波(マルチパス)をなるべく受信しないようにするためである。
放射パターンは図のように、通常幾つかのローブ(lobe: 裂片, 葉片)と呼ばれる放射の強くなる方向がある。その中で最大の強度となる方向を含むローブを主ローブまたは主ビームといい、それ以外のローブを副ローブ、サイドローブ、サイドビームなどという。放射電界が零とみなせる点をヌル(null)と呼ぶ。
主ローブにおいて、最大値に対し電力が半分(電界が1/√2)となる左右の方向の角度幅を半値角、半値幅という。
また角度0°(一般に主ローブの最大電力値の方向)の電界EFに対し、反対方向180°±60°の範囲にある極大の電界EBの比を前後比と呼んでいる。
式から解ることは、まず利得は電力(密度)で考えるということ、次に利得は基準アンテナに対して定義される量であること、さらに一つのアンテナに対しさまざまな方向の利得が考えられるということである。
ただし特に利得に関し方向を指定しない場合は、通常最大放射方向の利得である。また利得はdB値 (10log10 G [dB])で表すことが多い。
利得と一口に言っても、絶対利得、相対利得…といった多種の術語がでてきて混乱するかもしれない。そこで各々の術語を整理しておく。
絶対利得とは、基準アンテナを等方性アンテナとしたときの最大放射方向利得のことである。dB表示ではよく[dBi] (iはisotropicの意味) という単位で区別している。等方性アンテナは球状の全ての方向に一様に電磁波のエネルギーがばらまかれるわけであるから、絶対利得が1 (0dB) 未満ということはあり得ない。 ただし値付けしたいアンテナは無損失と仮定する。損失がある場合、すなわち放射効率η(放射電力に対するアンテナ入力電力の比)が1以外の値をとるとき、絶対利得は1以下となる。なおここでは以後『最大放射方向利得』は単に『利得』と呼ぶことにする。
基準アンテナの種類を指定したときにアンテナの利得を言う場合、『〜に対する相対利得』という言い方をする。相対利得を問題にする場合にしばしば基準アンテナとして用いられるのは半波長アンテナで、この場合は半波長に対する相対利得という。このパラメータは、八木宇田アンテナや対数周期アンテナ、バイコニカルアンテナなど、線状アンテナの利得が半波長アンテナに対しどの程度であるかを知るためによく用いられる。
これも相対利得の一種で、基準アンテナを『完全導体平面の上に置かれた四分の一波長よりも非常に短い完全垂直空中線(モノポールアンテナ)』としたもので、電波法施行規則第2条の77に定められている。短波放送の送信アンテナとして用いられる設置アンテナの利得を表示する等の目的で使われる。
以下にアンテナ利得の例を示す。(下表で相対利得は『半波長ダイポールアンテナに対する』ものである)
| アンテナ | 絶対利得 | 相対利得 | 地上利得 |
|---|---|---|---|
| 等方性アンテナ | 1 (0dB) | 0.61 (-2.15dB) | 0.33 (-4.77dB) |
| 微小ダイポールアンテナ | 1.5 (1.76dB) | 0.91 (-2.15dB) | 0.5 (-3.00dB) |
| 半波長ダイポールアンテナ | 1.64 (2.15dB) | 1 (0dB) | 0.55 (-2.62dB) |
上表でわかるとおり、絶対利得Ga、半波長ダイポールアンテナに対する相対利得Gh、地上利得Gvは相互に関係があり、
またホーンアンテナの利得は通常絶対利得で表現するが、大体31.6 (15.0dBi)〜63.1 (18.0dBi)と線状アンテナに比べて極めて高い値を示す。そのかわり半値幅(ビーム幅)も10°程度とかなり狭い。
指向性利得は前述3つの利得とは根本的に違う。すなわち、基準アンテナに対する電力密度比という考え方ではない。定義は、ある特定方向への電力密度とそのアンテナの全放射電力を全方向について平均した値との比 である。早い話がある方向における電力指向性である。混乱しないよう、注意が必要と思われる。
※絶対利得の記述に対し、村瀬様よりご指摘戴き修正致しました。ありがとうございます。
1. アンテナ工学ハンドブック, 電子情報通信学会編, オーム社, 1980.2. 内田・虫明共著, 超短波空中線, 生産技術センター, 1977.