最低賃金制についての解説
「ワーキングプアをなくせる最低賃金制に」
2007.10目黒地区労働組協議会
T、最低賃金制はどんな制度か
1、最低賃金制と最低賃金
最低賃金制・・最低賃金を決める制度(最賃額以下の賃金支払いには罰則がある。
日本は5千円〜1万円)
最低賃金・・・・全国(地域)や産業に適用された最低の賃金(それ以下は罰せられる)
@、全国(地域)や産業に法律で定められ最低の賃金額
・・・法定最低賃金(日本の場合は、地域包括と産別最賃)という。
A、労使協定(協約)が国家権力によって強制力を確保した(一般的拘束力という)最低の賃金額
・・・「労働協約の拡張適用」と言う。
★、労使協定(労働協約)の拡張適用(日本の場合11条に規定されているが実効性が少ない)
2、なぜ最低賃金制が必要か
イ、社会政策上
@、極端な低賃金をなくす(救貧的性格)・・・主に未組織、不安定雇用
A、公正な競争の確保(賃下げによる企業間競争の規制、ソーシャルダンピング(飢餓輸出)の排除)
B、国の経済政策決定の基礎となっている。(日本では低賃金政策の柱の一つとなっている)
C、低い賃金が全労働者の賃金の基礎(賃下げ競争の緩和、格差の歯止め、)
★、西欧の最賃制の歴史では、組織化が困難な産業・業種の組織化促進策ともなっていた。
D、生活の最低費用として年金・生活保護など社会保障の基準となっている。
(日本の場合は生活保護より低い地域があるほど異質)
ロ、労働組合の運動の問題
@、労働組合の全国および産業別の統一行動の前進
A、労働組合の組織的と交渉機能の拡大(日本の場合、企業別組合の克服の課題と捕らえられていた)
2、最低賃金制の原則
イ、金額決定には労使対等の代表の参加
★、賃金は労使交渉で決まる(日本の場合、公務員にこの権利がない)
労働者の要求があればいつでも改定を要求できるし、生計費原則を確保しやすい。
★、最低賃金を法律だけで決める方式は、国の賃金統制に使われるとともに、変化する労働者の生活実態と乖 離しやすい。(アメリカ)
ロ、生計費原則(日本の場合は「企業の支払い能力」を考慮することになっている)
ハ、多くの国が全国一律であること(労働者の競争範囲が拡大・・・世界的基準の作成の必要さえ言われ始めてい る)
《注意事項》
1、似て非なるもの・・・労使協定(労働協約)と労働組合
日本・・・労働条件の労使協定(労働協約)は企業ごと(企業別組合)、単産・企業別組合の連合
世界・・・原則として産業・業種の組合(一般の場合もある)、一人一人が直接組合に所属。
2、賃金の平均値・・・西欧諸国に比べ、日本の賃金は格差が大きく実態を反映しにくい。最賃を考えるとき、平 均値で考えるのには注意を要する。
U、世界の最賃制と日本の現行最低賃金制
1、 最低賃金制の歴史(別紙年表参照)
イ、救貧(組織化が進まない産業・業種)と労使対決の回避策で始まった最低賃金制
ロ、労働協約の拡張適用が中心になる。労働者、労働組合の統一行動の前進こそが改善の力
ハ、最低賃金制はもろ刃の刃、「最低生活の保障、改善」と「国家の賃金管理、統制」
(戦争の時には統制賃金。)
2、日本の最低賃金制の問題点(世界の最低賃金制と比較は別紙資料)
イ、日本の場合は、 以下のように労使対等や生計費原則に欠陥があり、実質では低賃金固定の賃金政策の道具 になっている。(複雑に見える)
ロ、原則点での先進国で一般化している点との差、問題点。(その他については資料参照)
@、改定の発議から決定まで国(厚生労働省)の権限で行なわれる(やらなくてもよい)。
A、金額決定には労使同等・同数の代表の参加について
日本の方式は、職権による公益委員(学識経験者等)、労使代表の三者で構成する審議会方式で以下の問題 がある。
★、審議会は、公・労・使同数となっており、公益委員の比重がきわめて高い。そのため、労・使の主張より、労 使委員の意向より、公益委員の意見が通りやすい(労使一致しないときは、公益委員の見解が提示され諮 問される)
A、生計費原則
賃金額の基準として、労働者の生計費に加え、企業の支払能力の規定もある(最賃法第3条)、生計費の基 準すら議論された事がない。
★「生計費の基準について何ら検討した事がない」、もっぱら「毎年の賃上げ率を参考」にしてきた
(審議会議事録)
C、労使協定(協約)の拡張適用(最賃法11条)では、活用に大きな障害。(2分の1に適用・・・50%の組織率と労 使全団体の合意が求められている)
D、全国一律問題
中央から目安(A,B,Cランク別)が示され、地域ごとに審議会を置き、全国一律ではなく地域間の格差を 認める。
欧米と日本の最低賃金制の比較
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最低賃金額
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適用範囲
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決定者
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最低賃金額決定の制度
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改定
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カバー率
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影響率
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アメリカ
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5.15ドル/時間
(1997年9月〜)
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全国
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連邦政府
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(公正労働基準法で直接額を規定。一定期間毎に見直す等の定めはない。
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規定なし
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70%
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1.6%
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日本
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673円/時間
(2006年加重平均)
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都道府県ごとに、地域包括と産別の2種
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政府
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国が審議会を開き、答申を聞く、審議会は公労使の三者同数構成で、16条(職権)審議会方式という。
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国の判断
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96%
(産別9%)
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1.4%
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地域、産別
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政府
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労使協定(協約)拡張適用の規定(11条)。
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フランス
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8.27ユーロ/時間
(2006年7月1日〜)
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全国(SMIC)
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政府
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全国団体交渉委員会の賃金給与小委員会で標準生計費を決める(2%upで改定) 、交渉委員会は労使各15名、家族利益代表3名で構成。
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毎年7月1日付けで金額を改定。
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16歳以上全労働者
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13%
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産別(全国)ごと
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労使(協定)
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産業別の労使協定を同産業の全労働者に適用。
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25% |
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イギリス
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4.1ポンド/時間(2001年)
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全国
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低賃金委員会
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98年に審議会が廃止(サッチャーの規制緩和で)、その後復活
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5%
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ドイツ
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産別(全国)ごと
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労使(協定)
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原則として労使協定の拡張適用、
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全国
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上記の労使協定の拡張適用が基本だが、建設関係など(最近、清掃も)に最低賃金がある。
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影響率・・・改定の時に違反になった割合
日本の最低賃金制の問題点
1、改定の発議から決定まで国(厚生労働省)の権限で行なわれる(やらなくてもよい)。(職権で)
補1)ほぼ毎年改定されているが
補2)国は「審議会の意見を聞くだけでよい」の規定。
★、職権による審議会方式は、委員数は数の上では労使同数でILOの条約をクリヤーしているが、公益委員 も同数・・・労使委員の意向より、公益委員の意見が通りやすい(労使一致しないときは、公益委員の見解 で諮問されている)
★、審議会方式とはいえ、実際上はアメリカ型の最低賃金制に近い。
2、賃金額の基準として、労働者の生計費(ILOの条約をクリヤーしている)が、企業の支払能力の規定もある (最賃法3条)・・・フランスの場合物価指数をもとに
「生計費の基準について何ら検討した事がない」「毎年の賃上げ率を参考」(審議会議事録)
3、中央から目安(A,B,C,Dランク別)が示され、地域ごとに審議会を置き、全国一律ではなく地域間の格差を認 める。(全国一律を否定)
また、産業別の場合は、基幹的労働者に限られている。(18歳以下、65歳以上、一定期間以下の勤続者は適用 除外されている)
4、最低賃金額が極めて低く、毎年改定しても引っかかる労働者が極めて少ない(アメリカも)
5、労使協定(協約)の拡張適用(最賃法11条)では、職権方式である上に地域単位に規制し、実現不可能なよ うに用件を厳しくしている。「同種の労働者およびこれを使用する使用者の大部分が適用受ける場合(2 分の1とされる)および労使全部の合意」現在全国で塗料製造業関係2件、適用労働者450名という。
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