9月のストックホルムに1週間滞在した。朝晩ちょっと冷え込んだが、快晴に恵まれて、快適な美術散歩ができた。北欧の空は抜けるように青く、澄み切った海の美しい水色や芝生の緑とよい対照をなしていた。このような環境の中、御殿のような建物に大切に飾られている作品は幸せそうだった。 (2007.9a)
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ストックホルム: 国立美術館
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スウェーデン最大の美術館。午前中の仕事を済ませて、行ってきた。街中の便利なところにある。時間がなかったので往復タクシーを使ったが、バスや地下鉄でも簡単にいけるところにある。 建物はルネサンス様式だが18世紀末のもの。入ってすぐの階段の脇に、カール・ラーションの大きな歴史的フレスコ壁画《グスタフ・ヴァーサの入城》があった(参照)。14世紀以来デンマークの支配下にあったスウェーデンを開放したのが貴族グスタフ・ヴァーサで、1523年に王位に就き、「グスタフ1世」となったのである。 時間の関係で、絵画・彫刻が展示されている3階にエレベーターで直行。2階の銀器・織物・調度品・企画展はパスすることにした。 ストックホルム国立美術館のことはあまり知らなかったが、素晴らしいコレクション。展示は時代別・国別に分類されていて分かりやすい。 1.オランダ・フランドル: レンブランドの油彩が7点並んでいてどきもを抜かれる。大作《クラウディス・キヴィリスへの誓い》が目立つ・自画像なども素晴らしいが、《キッチン・メード》は非常に魅力的。《寺院のシモン》の表情も印象的である。ルーベンスの《アンドロスのバッカス》はティツィアーノのコピーの大作、《スザンナと老人》は小品ながら素晴らしい。ヨールダンス・ダイク・ハルスの傑作もあった。
2.フランス: なんといっても素晴らしいのはジョルジュ・ド・ラトゥールの《枢機卿帽のある聖ヒエロニムス》。自分を鞭打つ縄に血が付いている。背部の帽子・十字架を持つ左腕にかけた布の赤が目を惹く。 プッサン・ロラン・ワットー・シャルダン・ブーシェ《ヴィーナスの勝利》・フラゴナール・アングル・ジェリコー・コロー、クールベの名品が並ぶ。マネの《梨をむく若い男》、セザンヌの《風景》、シスレー・モネ・ゴーギャン・ボナールなどがこれに続く。特にルノワールの《ル・グルヌイユール》・《会話》・《アントニー小母さんの宿屋》などが肩を並べているのは壮観である。 3.イギリス: ゲインズバラやレイノルズの肖像画はいずれも一級品。 4.スペイン: グレコの《ペテロとパウロ》、スルバランの《聖ベロニカの布》、メレンデスの《野いちごと風景》はすべて素晴らしい作品であり、ゴヤの大作《時と歴史》は階段のおりくちの裏側にあってあやうく見逃すところだった。
5.ドイツ: クラーナハの《似つかわしくないカップル》は良くある画題だが、細部にわたってしっかりと描かれている。 6.ロシア: イコンが一部屋一杯展示されていた。色彩が豊かなのに驚いた。 7.スウェーデン: 古い18世紀では、カール・グスタフ・ピロの《グスタフ3世の戴冠式》やアレキサンダー・ロスリンの《ベールの女性》、19世紀以降ではアウグスト・ストリンドベリの《市》、エーンスト・ヨセフソンの《水の精》、カール・ラーションの《建築家テッシン》、アンデース・ソーンの《夏のダンス》、エウシェン・ヤンセンの《リーダーフ庭園》らの素晴らしい作品が沢山並んでいた。この国の絵画のレベルの高さに驚いた。デンマークのハンマースホイの静謐な画もなかなかである。 1階のカフェでお茶をしていると17時閉館の鐘が鳴った 現代美術館にはピカソ・マティス・クレー・ダリがあるそうだったが、これらは日本国内でも良く観ているのでパスした。(2007.9a)
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ここでコンサートが開かれた。バロック様式の壮大な建物。内部には黒檀と銀による祭壇。15世紀に作られた木彫り《セント・ジョージと龍》が立派である。 (2007.9a) |
ストックホルム:ドロットニングホルム宮殿
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素晴らしい宮殿と庭園、これに附属する中国の城と宮廷劇場。いずれも世界遺産に登録されている。現在は国王と家族の住居となっているが、一部公開されている。アクセスは地下鉄とバス。シーズン・オフなのでフェリーは出ていなかった。船着場までいったが残念。宮殿内は立派な調度と王族の肖像画で一杯。中国の城の内部の美術品はたいしたものはないが、ここまで運ばれていたことに感心。劇場は18世紀のものが現在も使われている。 (2007.9a) |
ノーベル賞の受賞パーティの舞踏会がが開かれる「黄金の間」でカクテル。1900万枚の金箔のモザイクは豪華絢爛。 ノーベル賞受賞祝賀晩餐会の開かれるブルーホールの大広間で晩餐会も素晴らしかった。 (2007.9a) |
ストックホルム:ヴァーサ号博物館
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1628年に処女航海に出たスウェーデンの軍艦ヴァーサ号が港内で沈没したものが引き上げられ、展示されている。まず船の巨大さに驚く。幅のわりに高さが高いスマートな船で、180に及ぶ彫刻が施されており、特に船尾のものは壮麗な木彫りが金色に塗られ、第1級の美術品である。 (2007.9a) |
ストックホルム:プリンス・エウシェン美術館
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エウシェン王子(1865-1947)は素晴らしい風景画家である。優しい色合いは彼の性格そのもののようである。 このWaldemarsudde美術館は、彼の邸宅をそのまま美術館として開放しているものである。ユールゴールテン島南側の岬にあり、バスの終点となっている。 バスを降りてから、右側の山の小道を登っていく。緑が多く素晴らしいところである。美術館のある岬まで登ると、そこからは海が見渡せ、屋敷は花で囲まれている。 中に入るとそれぞれの部屋は素晴らしい調度品と花で満たされている。そして壁面にはエウシェン王子自身の作品を交え20世紀前半のスウェーデン画家の作品が上品に飾られている。エーンスト・ヨセフソン、エウシェン・ヤンセン、アンデース・ソーン、ニルス・クリューガーなどお気に入りの作品が並んでいる。 ちょうどイヴァン・アグーリ (Ivan Agueli)という画家の企画展が開かれていた。これも落ち着いた良い画が多かったが、チョット迫力に欠ける憾みはあった。 このように美しい花、素晴らしい眺望、絵画のコレクションに囲まれたエウシェン王子の人生は非常に幸せなものだったのではあるまいか。彼の画の優しさ、穏やかさが何よりもこのことを物語っているのではないかと考えた。 ちょうど昼食時となったので、キャフェテリアでランチをとった。スウェーデン語のメニューだけだったので、「英語のメニューはないか」と尋ねると、「英語のメニューはないが、英語に翻訳できる」という。スウェーデン人は本当に英語が上手である。それもブリティッシュ・アクセントではなく、アメリカン・アクセントである。 美術館のキャフェテリアにはちょっとお洒落をした老婦人たちで一杯だった。高齢者を大切にする福祉国家スウェーデンの面目躍如である。ただしこのため物価は高い。このランチも結構な値段だった。(2007.9a)
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ストックホルム:ティールスカ・ギャレリー
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ユーユゴーデン島の南の岬にあるプリンス・エウシェン美術館から最東端のティールスカ・ギャレリーまでの道は予想より遥かに遠かった。この間にはバスがなく、一旦バスで本土に戻って、別なバスに乗り換えるという手もあったのだが、歩いたほうが早いというプリンス・エウシェン美術館のスタッフの話に従って歩き出した。右手には芝生とお屋敷の向こうに海が見渡せ、左手の車道を避けて砂利道を歩いていった。後で分かったがこれは馬の通る道だったのである。 汗をかきながらひたすら歩くこと小一時間、やっとティール・ギャラリーに着いた。ここは銀行家ティールの邸宅。展示されているのは、スウェーデン画家としてはエーンスト・ヨセフソン、カール・ラーション、アンデース・ソーン、デンマークのヴィルヘルム・ハンマースホイなどの19世紀末から20世紀初頭のものが多いが、何といってもこのギャラリーの特徴はノルウェーの画家ムンクのコレクションである。 2階に登ると突き当たりに左に階段があって中二階に降りるようになっている。ここが有名なムンクの部屋である。天井から光が差し込み、奥にアンティークの木製の椅子が置かれており、これに坐って12点のムンクの油彩画を眺めることが出来るようになっている。降りてきた2階の正面にはロートレックの踊り子の画が架かっている。 その部屋には監視員は居ない。オランダのクレラミューラー美術館と同じく、ここまで苦労してムンクを観にくる人に悪い人はいないのだろう。フラッシュをたかずに写真を撮りまくった。下記にその写真でこのムンク室を再現してみた。
3階に昇るとそこにはムンクの版画が13点展示されていた。《接吻》、《吸血鬼》、《マドンナ》、《叫び》、《声》のような見慣れたエッチングやリトグラフやが並んでいた。 オープン・カフェでお茶をしていると閉館の16時になってしまった。本土へ直通するバスで無事帰還。 素晴らしい美術散歩の1日だった。(2007.9a)
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