スペイン美術散歩 (日本美術は別ページ)
仕事でバルセロナに滞在中、バルセロナのいくつかの美術館を回った。明るい太陽と海、清潔な街並み、奇妙な建造物、そして古い聖堂や教会自体もアートであった。また日帰りでマドリッドを往復してプラドとティッセンを観てくるという離れ業もやってのけた。このページは、下のほうが日程としては早いものである。いつものことだが、美術散歩についてはかなりの達成感に満足しつつ、今回観られなかったものへ後ろ髪を引かれる気持ちとが交錯しながら、感想記をアップする。(2005.9a)
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バルセロナ: 海洋博物館
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ここは14世紀のゴシック様式の王立造船所を、1929年以来、海洋博物館、復元された中世の木造船や海図などを展示している。 今回は、ここに17世紀につくられた有名な「Marques Comilass Hall」で晩餐会が開かれた。美しいアーチのある広いMarques de Comillas ホールに世界中から集まった600人もの参会者が集う様は豪快であった。 フォーマルの服装という事なので、日本から持参したタキシード姿で出席した。余興の「Pep Bou」のシャボン玉芸は見たこともない素晴らしいアート(技術)であった。(2005.91a) |
バルセロナ: ピカソ美術館
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ここはピカソの少年時代から10代後期までの作品が多い。上野の森美術館の「バルセロナ・ピカソ美術展」でも「初聖体拝領」などは観る機会があった。この時には家内が観にいって、カタログで十分観ていたので、今回はパスしようと思っていた。しかし最終日に時間が余ったので、時間つぶしのつもりで覗いた。 狭い中世の面影を残す路地モンカダ通りにピカソ美術館があった。美術館自体も中世の貴族の屋敷を改造したもので、回廊や中庭などもなかなか見ごたえがある。 「科学と慈愛」は有名な作品であるが、東京に来ていたいくつかの下絵から想像していたよりもはるかに大きく見応えがある。この画を含め父親がモデルになっている作品が多い。 「小人の踊り子」のようなどぎつい色の点描作品、「髪を束ねた女」のような青の時代の作品、自殺した友人「カザジェマス」の肖像や自画像などもいんしょうてきであるが、「鳩」の連作や「ラスメニーナス」の連作は圧倒的な迫力があった。 キャフェテリアで簡単なランチを摂り、ミュージアムショップでお土産のTシャツなどを買って、地下鉄でホテルに帰った。(2005.9a)
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藤田嗣治展: バルセロナ・ディオセサーノ美術館
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カテドラルを出た広場の右側に小さな美術館 Museo Diocesano があった。そこで藤田嗣治展をやっていたので足を止めて写真を撮った。 副題は、Foujita, entre Oriente y Occidenteとなっている。中には入らなかったが、世界の広い舞台で活躍したからこそ、今でもこのように個展が催されるのだろう。 藤田がパリに行ったのは、彼が戦争画を描いたたことに対する戦後の非難から逃げたのであるが、彼もまた戦争という時代を生き抜いたのである。バルセロナという遠隔の地で彼の個展のポスターを見ると、あまり彼の戦時中の行動を非難し続けるのもどうかと思うようになった。戦後すでに60年が経っているのであるから・・・・・(2005.9a)
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バルセロナ: カテドラル美術館
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カタルーニャ・ゴシックの建築。中世の面影を色濃く残している。 素晴らしい内陣、聖歌隊席、数多くの美しい礼拝所など一流の大聖堂である。現在も司祭や信者の祈りの場となっていることがよく分かった。 回廊には中庭がありガチョウが水遊びをする池まであった。 回廊の中の小さな美術館(カテドラル美術館)にも入った。入場料は1ユーロである。素晴らしいピエタがあった。このピエタは、バルトロメ・ベルホッホが1490年に手がけたものである。 なにせ説明がすべてスペイン語なので分かりにくかったが、その外に中世の祭壇の一部やハウメ・セーラ、ハウメ・フーグェト、サノ・デヒ・ピエトロ等の絵画や調度品等が並んでいた。(2005.9t)
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バルセロナ: サンタ・マリア・デル・マル教会
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似た様な教会がいくつかあるので、うっかりすると間違える。 サンタ・マリア・デル・マル教会は短期間に作られた教会なので純粋なカタルーニア建築だという。正面のファサードには、丸い大きな窓があったり、入口の重厚なつくりはとても美しい。(2005.9t)
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バルセロナ: カタルーニャ音楽堂
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カタルーニャ音楽堂は世界遺産の一つである。全体を保護するため透明のパネルで覆っているこの建物はとても不思議な建築様式である。音楽堂は3階席まであり、周囲、天井は美しいモダンな模様のステンドグラスがある。舞台両側の壁は明るいレンガ色で、楽器を持った立体的なミューズ(?)の彫像が左右6体ずつ飛び出している。ちょっと東洋的な感じもする。 ここで、スパニッシュダンスと、タップダンスを見た。カスタネットも指の使い方によって実にいろいろな音を奏でる。さすがプロなので歯切れの良い音楽だ。スパニッシュダンスは皆きりっと怖い顔をして睨むような目で踊っていたが、タップダンスのほうはにこやかにリズミカルに踊っていて、見ていても楽しめた。しかしタップダンスも超難しそうなステップで、しかも一曲が長く、大変な運動量だと思う。(2005.9t)
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マドリッド: ティッセン・ボルミネッサ美術館
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プラドのゴヤ門を出て、交差点を渡るとすぐにティッセン・ボルミネッサ美術館に着く。 昨日はバルセロナでそのコレクションの一部を見たが、ここはその本丸である。 さらに奥さんのカルメン・ティッセン・ボルミネッサ・コレクションも比較的最近加わって、一大美術館となっている。 マドリッドでプラドの他にもう一つ美術館をというと、ゲルニカのある「ソフィア王妃芸術センター」ということになるらしく、日本人ツアーガイドが大声で「今度はソフィアですよ」とせきたてていた。私たちは模写ながら「ゲルニカ」を観てしまっているので、迷うことなくティッセンでゆっくり時間をとることにした。 まずはグレート・マスターが待っている2階へ。ヤン・ファン・エイクの「受胎告知」はまるで彫刻のような二連画。思わず引き込まれそうになる。ギルランダイオの「ジオバンナ・トルナブオニ」は美しい女性の横顔。ホルバインの「ヘンリー5世」は教科書にも出てくる有名な画。ラファエロの「若者の肖像「、カルパッチォの「若い騎士」、デューラーの「ドクターの中のキリスト」、へームスケルクの「糸をつむぐ女」、ティティアーノの「砂漠の聖ヒエロニムス」、ティントレットの「天国」、エル・グレコの「受胎告知」などどれ一つとして見逃せない。 カラバッジョの「アレキサンドリアの聖カタリナ」は今まで観たこの聖女でもっとも魅惑的である。リベーラの「ピエタ」は厳しく、ムリリョーの「聖母子とパレルモの聖ロザリア」はとても柔らかな画である。クロード・ロラン、カナレット、グアルディ、ルーベンス、ダイクとバロック絵画の名品も勢ぞろいである。 続いて同じ階のカルメンのほうを観たが、本当ならティッセンの1階から観ればよかったかもしれない。ティッセンの1階には、ハルスの「家族と風景」、ヤコブ・ライスダールの「ナールデンの風景」、ワットーの「ピエロ」、ゴヤの「アセンシオ・ジュリア」、フリードリッヒの「早朝」、マネの「乗馬趣味の女」、ドガの「踊り子」、モネの「ヴェトイユの雪解け」、ドガの「帽子店にて」、ゴッホの「アルルの荷揚げ」・・・・・など枚挙に暇がないほどの名画の連続である。 地上階には現代美術のレベルの高いものが並んでいた。なかでもピカソの「鏡を持ったアルルカン」やホッパーの「ホテルの部屋」が素晴らしかった。 一方、カルメンのほうは女性らしいまなざしのコレクションで、ダイクの「十字架のキリスト」、フラゴナールの「若い女性」、コンスタブルの「岩」、フォランの「ピンクの踊り子」、コローの「水浴するディアナ」、ブーダンの「エトルタ」と「ヴェニスの大運河」、ヨンキントの「デルフトの水車」、モリゾーの「裸婦」、サージェントの「ラッセル夫人」、ゴーギャンの「マタ・ムア」、ベルナールの「受胎告知」、ノルデの「夏の午後」、ペヒシュタインの「浴女」、ヘッケルの「白い家」、キルヒナーの風景画2点、グリスの「座る女」、ホッパーの「ヨット」などが好感度作品であった。 ティッセンの2階をもう1度ゆっくりと「鑑賞」し、レストランでお茶をした。そのたび毎に美術館を出入りしたが、スルバランの画から抜け出て来たような美少女が機嫌よく応待してくれて、マドリッドの印象がいっぺんで良くなった。マドリッドから航空機の出発が遅れ、バルセロナのホテルについたのは8時半頃となり、夕食を食べに出かける元気もなく、ポテトチップスとビールという粗食でベッドに入った。(2005.9a)
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マドリッド: プラド美術館
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バルセロナ滞在中に、マドリッドを日帰りするという離れ業。早起きして7時15分の飛行機で出発、プラド美術館には開館10分前に到着した。日曜は無料で、お店も休みなので、特に混雑するということだったが、さすがにこの時間である。ゴヤ門で待っている人は20人程度であった。 すぐ入った所にラファエロの画が何枚もあり、後はパンフレットを見ながら、すべての部屋をていねいに観て廻った。フラッシュなしの写真撮影はOKということで何枚も撮ったが、やはり手ぶれなどのため、満足できるものは少ない。結局厚くて思いカタログを購入するはめになった。 ちょうど今年が、「宇宙王」フィリップ5世(1605-1665)の生誕400年記念ということで、彼の治世に作られた「Buen Retiro」宮殿の絵画が特別展としてまとめて展示されていた。1633年から1643年のわずか10年間に、ベラスケス・スルバラン・リベーラ・プッサン・ロランなどの作品が800点もこの宮殿に集められたとのことである。今回は、これらを次5つのセクションに分けて展示してあった。 1.「Buen Reitro」宮殿・・・・・・・・・・・・・・・ジュセッペ・レオナルドの同名の画など 2.古代ローマを巡って・・・・・・・・・・・・・・プッサン「マラガの狩」など 3.貴族・道化などの人物画・・・・・・・・・・ベラスケス「オリヴァレス伯公爵騎馬像」など 4.「Realm」ホール・・・・・・・・・・・・・・・・・・ベラスケス「ブレダの開城」など 5.風景画のギャラリー・・・・・・・・・・・・・・・クロード・ロラン「聖アントニウスの誘惑」など このうち「Realm」ホールは18世紀以来初めて正確に再現されたもの。ネット上で見られるようになっているので、堪能して下さい。 キャフェテリアとショップに寄って、約3時間、プラド美術館を堪能した。(2005.9a)
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バルセロナ: カタルーニャ美術館
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観光バスを青ラインに乗り換えてモンジュックの丘に登った。カタルーニャ美術館は国立宮殿を利用した立派な建物であり、正面広場からは下にスペイン広場の眺望がえられる。 ここもバルセロナの祭日なので無料であった。カタルーニャ美術館は、11-13世紀のロマネスク美術を展示していることでは世界屈指の美術館であるとされている。今回の旅行ではここだけは絶対に見逃すまいぞと決めていたので、初日にここを訪れたのである。 入ってすぐの左手からロマネスク美術の宝庫に入る。これらは20世紀になってピレーネー山地の教会や修道院で「発見」され、そこから剥ぎ取ってきたもので、現地には模写が残されているだけだという。わが国で現在問題になっている高松塚古墳やキトラ古墳の壁画の保存問題に大いに参考になる事例である。 「栄光のキリスト」はあまりにも有名であるが、それにも負けない大きさの画、それよりも保存状態のよい色彩の画があふれていた。色彩は濃い緑と茶を主体とするピレネーの色である。しかもこれらは教会や修道院を模した状態で展示されていることに感心した。 この美術館には、従来からルネサンス、バロック、近代絵画もそろっていたのであるが、宮殿の楕円形大ホールの階上にはペトラルベス修道院から移されたティッセン・ボルネミッサ・コレクションの傑作が並んでいた。(2005.9a)
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バルセロナ: ペドラルベス修道院美術館
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ペドラルベス修道院美術館は新市街で町の中心部からはちょっと遠い。でも市内観光バス(赤ライン)がちゃんと連れて行ってくれる。14世紀のゴシック様式の修道院である。バルセロナの祭日なので入場無料であった。 ここの2階にティッセン・ボルネミッサ・コレクションがあるとガイドブックに書いてあったのでここまで足を伸ばしたのだが、聞いてみるとこのコレクションはカタルーニャ美術館に移されたのことであった。1階の回廊は細いアーチが美しく、その周りの礼拝堂や僧房には宗教画などの宝物が展示されていた。(2005.9a) |
バルセロナ: 聖家族教会
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学会のため、会場のバルセロナ国際会議センター(CCIB)に隣接したホテルに、6日間ゆっくりと滞在した。第1日目は、夕方までフリーだったので、市内観光バス(Bus Turistic)の3系統全部を乗り降りして、バルセロナ市内を駆け巡った。 まず観光バスの緑ラインから青ライン、さらに赤ラインに乗り換えて北に向った。ガウディーの有名なカサ・バトリョやカサ・ミラは車窓から写真を撮るだけにして、有名な聖家族教会前で下車した。新旧の尖塔が立ち並ぶ不思議な建物で、見る前にはなんとなく異物感があったが、よく見てみるととても愛嬌がある建物である。中へ入ってみたが、なおいたるところ工事中で、1882年に着工されたこの教会が完成するのは100年とも200年ともいわれていることに今更のように驚いた。 確かに中世イタリアの大聖堂のなかには何百年を費やして完成したものも少なくないので、このこと自体は驚くことではないのだろうが、現代社会の変革の速さのなかではこのような中世的な速度は異質なものに見える。しかし異質なのはむしろワーカホリックな現代社会であって、このような悠々としたカタルニア文化を見なわなければならないのかもしれない。(2005.9a)
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