3月のシンガポールに1週間滞在した。結構暑かったが、良い美術散歩ができた。この国のエネルギーが美術館や博物館にも満ち溢れていた。 (2008.3a)
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ルーヴル美術館 ギリシャ美術展: シンガポール国立博物館
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仕事の合間を縫ってNational Museum of Singaporeへ。1887年建造のヴィクトリア風の美しい建物である。玄関を入ると、吹き抜け空間に派手な模様のダビテ像が立っている。これはまさにアジアン・テイスト。 地下の企画展会場には、2006年東京藝大美術館で観た「ルーヴル美術館展ー古代ギリシャ藝術・神々の遺産」が巡回している。お気に入りは、 第1章:雅典城郭(クラシック時代のアテネ):聖具箱を持つアテナ、首飾りをつけたミネルバ、バルベリーニの嘆願する女 第2章:生活世界(古代ギリシャの生活):赤像式オイノコエ(ふくろう) 第3章:競技精神(古代ギリシャの競技精神):円盤を持つアスリート(ディスコフォロス) 第4章:宗教崇拝(神々と宗教):ニケ、とかげを殺すアポロン、ガニュメデス、ボルゲーゼのアレス、弓を持つエロス、アルルのヴィーナス、ゲネトリクスのヴィーナス 素晴らしい作品は何回観ても良い。満足感を抱いて、次の会場に移動した。詳細はブログに書いた。 (2008.3a) |
常設展 その他: シンガポール国立博物館
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1.歴史ギャラリー: 日本語の携帯端末「コンパニオン」を借りて入る。これは無料。展示品がとても多く、それぞれに丁寧な説明がある。伝説的なタマセク時代の物語、ミステリー・ストーン、タン・ジャク・キムの葬儀に使われた霊柩車、日本の軍旗、街頭販売許可証、街頭人形芝居劇場、分離による離別などが印象的だった。 2.生活ギャラリー: ファッション、写真、映画、食文化など20世紀のシンガポールの日常生活の様子が紹介されている。ファションの変化の展示と写真ギャラリーなどをサラリと見た。 3.その他: 広東オペラ衣裳展、インドネシア現代美術展、栗林隆のインスタレーションなども見た。 複雑な歴史と文化の坩堝を基盤として現在の繁栄をもたらしたシンガポールから、学ぶものが多いことを痛感した。また、日本に対する反応も冷静なものとなっており、戦後60年以上という時の流れを感じた。 カフェで遅いランチをとって、次の目的地の「シンガポール美術館」に急いだ。 詳細はブログに書いた。 (2008.3a) |
Singapore Art Galleryは、国立博物館から歩いてすぐのところにある。歴史のある学校の建物を利用しており、外見はそれほど目立たないが、中庭に出て見ると、素晴らしい回廊に囲まれていることが分かる。受付に行くと、「あなたはラッキー!今日は無料観覧日です」とのこと。 1.傅正杰( Feng Zhengjie)の本色( Primary Colours)展: 明るい色彩の大画面で、平面的で不思議な表情の人物が描かれている。《My Parents》、《Chaina 2000-2002 No2》が良かった 2.Benny Ongの「Re-Woven」展: 紗のような薄い布に美しい仏頭が染められている。部屋の一番奥には仏像を染めたものが沢山展示されており、一緒に吊り下げられたガラス玉がキラキラ輝いて、神秘的な空間を形成していた。 3.特別展示「The Big Picture Show」: Edgar Talusan Fernandezの《Unfinished Painting of the Present》、Gao Xingjanの《Day and Night》、 タイのPratuang Emajoenの《Color Melody of Grand Canyon》、フィリピンのFernand Montemayerの《My Country》が心に残った。 4.東南アジア美術「Art of Our Time」: 絵画では、カンボジアのChin Sothyの《Human making love to Sovanmachha》、ミャンマーのMin Wae Aungの《Golden 23 Monks》、彫刻としては、ベトナムのNguyen Haiのブロンズ《Hero on a Horse- Saint》、インドネシアのG Sicharta Seogijoの座屈出産木像《Birth of Goddes》、Julia Llunchの鏡に向き合ったテラコッタ女性像《Thinking Murder》が記憶に残った。 ここで、思わぬ出会いがあった。フィリピンのBrenda Fajordoの油彩《American Occupation》 と《Japanese Occupation》はいずれも戦争画であるが、これを見ているとどこからか日本の歌が聞こえてきた。それは展示室の隅に置かれたビデオ作品から聞こえてきたもので、マレーシアにおける日本軍の市民虐待をテーマにしたものだった。これを見ていると、アメリカから来たカップルが話しかけてきたので、前述の《American Occupation》 と《Japanese Occupation》を一緒に見て、感想を述べあった。 詳細はブログに書いた。 (2008.3a) |
ナーランダ・トレイル:アジア文明博物館
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シンガポール最後の日。マーライオン公園で写真を撮った後、近くのアジア文明美術館 Asian Civilization Museum に行った。これは2003年3月に、旧王室を改装して建てられた博物館。 お目当ての企画展「ナーランダ・トレイル」の会場はセキュリティが厳重で、カメラや携帯はもとより、女性のハンドバックも預けなければならない。 仏教がその誕生の地インドから中国や東南アジアに広がったのは驚嘆すべき中国の僧侶たちの旅による。法顯、玄奘、義淨などは仏教の道を極めるために、中国からシルクロードを通って中央アジア、インドへと巡礼の旅に出た。これが今回のアジア文明博物館の展覧会「ナーランダ・トレイル―インド、中国、東南アジアの仏教」で示されている。800年以前のインドにあったナーランダ大学Nalandaにははるか遠くの国々から仏教を学ぶ信者が集まってきていた。 今回の展覧会のハイライトは仏舎利ならびに敦煌の仏画である。その他に、ムカリンダの被いのある王冠によって象徴される仏陀を拝んでいる信者が彫られているBC3世紀の砂岩彫刻の枕、BC2世紀の仏柱や3世紀の仏足印、2−3世紀のガンダーラの弥勒菩薩の石仏、5−6世紀のグプタ朝の砂岩仏、や唐時代の《妙法蓮華経》と《大般若経》も出ていた。 もう一つの重要な展示は、今回ナーランダからスマトラへの仏教伝播の関係が明らかになったことである。一つはスマトラからナーランダ州総統へ送られた寄付について彫られた大きな板である。8ー9世紀の南部スマトラには観音菩薩も展示されていた。このように東南アジアとインドとの間にも「ナーランダ・トレイル」が存在していたことが、今回の展覧会で明らかにされたのである。 この博物館のレストランは、シンガポール川沿いの景色の良いところにある。ビールを飲みながら食事をしているうちにすっかり暗くなり、博物館が閉まってしまった。インド系の係員に頼み込んで何とか空けてもらってロッカーの荷物を取り出した。これもホトケサマのご加護であった。 詳細はブログに書いた。 (2008.3a) |