日本美術散歩 09-4 (海外美術は別ページ)

neoteny japan 09.5 不折の愛した龍門二十品 09.5 現代の水墨画 09.5 片岡球子 09.5
板谷波山 09.5 源氏物語錦織絵巻 09.5 第3回菊池ビエンナーレ展 09.5 上野伊三郎+リチ コレクション 09.5
日本の美と出会う(細見) 09.6 日本の美術の愛し方(徳川) 09.6 ノリタケ 09.6 愛知県美術館 09.6
名古屋市立美術館 09.6 花岡萬舟連作 09.6 東博平常展 09.7 写 楽 09.7
戦争画(中村研一) 09.7 シアトル美術館所蔵日本アジア美術名品 09.8 江戸の幟旗 09.9 土屋光逸 09.10
高橋誠一郎コレクション 09.10 皇室の名宝 09.10 新・根津美術館 09.10  

目 次 ↑


新・根津美術館展ー国宝那智の瀧と自然の造形: 根津美術館


  しばらく改装のため休館していた根津美術館の再開館した。入口へは竹のアプローチ。建物はガラスが多く、内部は明るい。 

 「展示室1」が今回の「国宝那智瀧図と自然の造形」。仏教美術が多いが、鎌倉時代の垂迹画は残念ながら退色がひどく見にくい。とくに明るいホールから入ってくるため暗順能に時間のかかる人には厳しい展示室である。

 不思議なことに鎌倉時代の国宝《那智瀧図》にお目にかかるのは今回が初めてである。瀧自体がご神体となっている垂迹画である。瀧の水の流れ、岩肌、山や月、下部には飛瀧神社の屋根らしきものが見えている。ここでは伝統的な手法と中国絵画の技法とが併用されている。山の表現は春日曼陀羅的であり、岩壁は北宋画的である。

 これにくらべて、芸阿弥の《観瀑図》は、南宋の院体山水画に学ぶものである。図上の題賛からこの画が1480年に描かれたものであるとのことである。

 南北朝時代の《岩上観音図》は変色がひどいが構成が良い。補陀落山中の流水に臨む岩上に坐る観音とこれに対面して法を問う善財童子。水中に出現する龍は判りにくい。等禅の《白衣観音》も岩上観音だが観音さまの足が痛そう。

 江戸時代の《吉野龍田図》は、派手な屏風。右隻の吉野山の桜は胡粉で盛り上がっている。左隻の錦秋の紅葉に染まる龍田川も見事。両隻の短冊も巧い。筆者については、狩野山楽という伝承があるが、山口雪渓の筆と見る説もあるとのこと。

 室町時代の《芙蓉図》は、東博にある李迪の国宝《紅白芙蓉図》の影響を受けている。カマキリやイナゴが描き込まれているが、これを見つけるのはなかなか難しい。室町時代の蔵三の《牡丹猫図》も面白い。この猫は実際には蝶を見つめているのだが、蝶を見つけにくいので花を見ているように見えてしまう。

 (2009.10a) ブログ

 

皇室の名宝ー日本美の華: 東京国立博物館


  今回は「ご即位20年記念特別展」である。10年前に開かれた「ご即位10年記念特別展 皇室の名宝−美と伝統の精華」と比較してみると、今回の1章「近代絵画の名品」では18点のうち12点(67%)が前回出展されており、とくに有名作品はほとんど再出品されている。そこで今回はパスしようかなとも思ったのであるが、若冲の《動植綵絵》は前回12幅に対し今回は30幅すべて陳列されているし、岩佐又兵衛の《小栗判官絵巻》は前回の巻第1・11・13から今回は巻第2・10に変わっているし、また右隻の永徳の《唐獅子屏風》↑に常信の左隻がついている姿を見たかったので、出かけてみた。ということで第1章の部屋は混んでいる入口を避けて、出口から入る。

 又兵衛の《小栗判官絵巻》は、ちょっとドギツイ色彩ではあるが、小栗が閻魔大王の裁判で許されるところや、生き返って車で熊野に引かれていくミイラのごとき餓鬼阿弥と狂女のような常陸小萩の姿などは良く描かれている。全体で320メートルに達する大絵巻とのことであるが、全体を見てみたいものだ。この部屋の初見のものでは、太陽に向って立つちょっと脚がおかしな円山応挙の《旭日猛虎図》や水面に映る自分の顔を見ている谷文晁の《虎図》が良かった。酒井抱一の《花鳥十二ヶ月」》や北斎の《西瓜図》は見飽きている。 

  若冲の《動植綵絵》は2006年に三の丸尚蔵館で5期にわたって開かれた「花鳥ー伊藤若冲《動植綵絵》で細切れながら全作品をみており、2007年には京都の相国寺で開かれた「若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵 120年ぶりの再会」で《動植綵絵》 の全作品と釈迦三尊像が一堂に会しているのを見ているので、さっと見ることにする。群魚図(鯛)左の左下に描かれている「ルリハタ」にプルシアン・ブルーが使われていたとの発見があった由である。同じ群魚図(鯛)の中の鰯は群青、群魚図(蛸)の鰹は藍で描かれているとのことである。

 《唐獅子図屏風》では、右隻の16世紀の永徳の獅子は緑毛のものと茶毛のもの各一頭であるが、17世紀に曾孫の常信がこれに補筆したの左隻には白毛の獅子が一頭だけ描かれている。頭数が2:1なので常信はもう少しこの白毛獅子を大きく描けば位負けしなかったかもしれない。しかし細部まで綿密に描かれており、表装も揃えてあるので、これまで両隻を揃えて展示することが稀だったということ自体信じがたい。良いコンビネーションであると思った。

 対向の部屋の2章に展示されている「近代の宮殿装飾と帝室技芸院」では、62点のうち前回出ていたたものは27点(44%)であるが、昨年三の丸尚蔵館で4期にわたって開かれた「帝室技芸員と1900年パリ万国博覧会」(第1期、第2期、第4期)に出展されているものが結構あるのでモット沢山見ていることになる。ということであっさりと流して見たのであるが、杉谷雪樵の《大納言公任捧梅図》、幸野楳嶺の《月下擣衣図》、瀧和亭の《孔雀鸚鵡図》など初見のものとして良いものが多かった。

 書き出すときりがないので、自分と家内の「お持ち帰り」希望品をあげる。私としては七宝が良かった。派手な並河靖之の《四季花鳥図花瓶》を第一とするが、地味な濤川惣助の《月夜深林図額》もとても良かった。家内は、上村松園の《雪月花》がお気に入り。20年かけた力作で、それぞれ枕草子、源氏物語、伊勢物語を題材にしているとのこと。

 (2009.10a) ブログ

 

夢と追憶の江戸 高橋誠一郎浮世絵コレクション: 三井記念美術館


  (前 期) 有名なコレクションなのだが初見。16年ぶりの公開ということなので前期が終わらぬうちに見に行った。入ってすぐの「展示室1・2」に、師宣、春信、清長、歌麿、北斎、広重、写楽の有名作品がプロローグとして並べられていた。師宣の《衝立のかげ》の色彩と色気、春信の《風俗四季仙 二月 水辺梅》の構図とコントラスト、清長の《色競艶婦姿 床入前》の色彩と色気、歌麿の《高島おひさ》の雲母摺、北斎の《山下白雨》のぼかし、写楽の《三世市川高麗蔵の志賀大ヒ七》の雲母摺などは目を見張るものだった。

  「展示室3」は高橋誠一郎資料。以後の展示室は、1.浮世絵の黎明、2.浮世絵の革命、3.浮世絵の展開、4.幕末浮世絵ー北斎、5.幕末浮世絵ー広重、6.明治の浮世絵ー伝統の終息と分けて展示されており、浮世絵の歴史を俯瞰することが出来るようになっていた。初見の作品も少なくなかった。

 「展示室4」のお気に入りは、奥村利信の《床之内三幅対 中 きやらとめ風》・・・伽羅の香、鈴木春信の《子供の遊び》・・・・兎の影絵、喜多川歌麿の《当時全盛美人揃 扇屋内花[扇]》・・・美しい着物の模様。

 「展示室5」では、歌川国芳の《松尽 高砂の松》・・・翁と媼や蓬莱山を模した島台を背景にした若い女性、葛飾北斎の《箱根》・・・関所。

 
 「展示室6」は北斎の見慣れた続物。「展示室7」の歌川広重の作品は見慣れたものが多く、わずかに《白梅に寿帯鳥》の空摺が目立つだけ。月岡芳年には見事な作品が多かったが、やはり見慣れてしまっている。しかし肉筆画の《日向の景清》の暗さには心打たれた。小林清親の光線画《浜町より写 両国大火 明治四年一月廿六日出火》は良い〆だった。

 (2009.10a) ブログ


 (後 期) 16年ぶりの公開の有名なコレクションということで前期を見たが、玉石混交なので図録を買うだけにして中期はパスした。中期のブログの中には展示方法について酷評しているものがあったので、後期に入ってもう一度確認することにした。入ってすぐの「展示室1」にプロローグとして並べられている師宣の《吉原の躰》の食べ物はなかなか面白いのだが、無色なので迫力がない。春信の《風俗四季仙》は今回だいぶ沢山見ることができたので一つの収穫だった。春信の《双六のけんか》の緑色が良い。清長や歌麿は見慣れたものが多く、保存状態もそれほど良くないのでガッカリ。北斎はマアマアだが、広重の保存状態はきわめて良好。

 「展示室2」の写楽《市川蝦蔵の竹村定之進》の雲母摺が凄い。バックが銀色に盛り上がっている。これが今回の展覧会のベスト・オブ・ベスト。

 「展示室4」のお気に入りは、石川豊信の《水鶏にだまされて》、きめだし技法のみられる鈴木春信の《白象と唐子》、勝川春英の《金時の辻宝引》。

 「展示室5」では、歌川国芳の《名画六枚屏風》、英松屋長喜の《難波屋店先》。

 
 「展示室6」は北斎の見慣れた続物。「展示室7」の歌川広重の作品は見慣れたものが多いが、藍が美しい。今回は月岡芳年に素晴らしいものが多かった。お気に入りは《五条橋》と《平維茂戸隠山鬼女退治之図》。

 (結 論) 1.高橋誠一郎コレクションの中には保存状態の良いものが含まれている。写楽が超Aクラス、春信、広重、芳年はほとんどAクラス。ただし最近海外から素晴らしい保存状態の浮世絵がたくさん里帰りしたが、これと肩を並べられるのは半数程度である。前中後期に分けて出展するほど素晴らしいものはそれほど多くなかった。清長、北斎、歌麿にはBクラスのものがたくさん含まれていた。虫食い・折れ線つきの歌麿など見たくなかった。

 2.展示方法に改善の余地あり。ガラスと絵が遠く、単眼鏡を使ってもよく見えず、ガラスに頭をぶつけている人が多かった。また、キャプションや図録の説明が不十分であきれた。16年ぶりの展覧会なのにガラスキ状態なのも当然である。次回、16年後に公開する時にはもうちょっとましな展覧会としてもらいたい。これでは高橋氏がお気の毒である。

 (2009.11a) ブログ

 

小林清親と土屋光逸ー師弟による明治のおもかげ: 礫川浮世絵美術館


  今回の展覧会は土屋光悦が中心であり、その師小林清親の作品は4点のみであった。入ってすぐのウィンドウには清親の《猫と提灯》が出ていた。これは内国博にも出された有名な絵らしく、陳列されていた画集の表紙のもなっていたが、個人的にはあまり好きにはなれなかった。このウィンドウには、光逸《牛込神楽坂》が2枚並んで掛けられている。左の「土井」という提灯の画は土井利一氏が最初に買われた再刻摺りのものである。その後、茅ヶ崎市美術館に光逸の娘さんが寄贈された資料から、「土井」ではなく「藤井」を書かれた初期刷りのものがあることを知って、右の作品を手に入れられたとのことである。次のウィンドウにはこの再刻の版木が出ていた。

 三番目のウィンドウには清親の光線画が2枚出ていた。《江戸橋夕暮富士》と《池之端花火》である。独特な光と影の構成はみごとだが、清親は明治14年以降にはこの光線画を止め、戯画、歴史画、風景画などに移っていった。

 次のウィンドウには光逸の初期の作品。歴史画や花鳥画など、あまり感心しない。光逸は最初石版画をめざしていたが、肺結核のため石版はやめて木版に移った。昭和7年に清親の17回忌展で渡邊庄三郎に見出され、新版画の道を歩むことになる。そのときの2作品の一つ《祇園の夜桜》が出ていたが、なかなか良い。この新版画デビューは光逸62歳の時だというから随分遅咲きである。

 次には、光逸の代表作とされる「東京風景」の12点がズラリと並んでいた。こちらは土井貞一版である。渡邊から土井へ移った理由は不詳。夜、雨、雪など巴水と同じテーマのものが多いが、それとは異なる情緒であるような気がする。1.《増上寺の庭》、2.《日比谷公園》・・・後者は江戸博にも出ていたが、あれも土井氏の個人蔵のものだとのこと。3.弁慶橋、4.高輪泉岳寺・・・師匠ゆずりの光と影の処理が素晴らしい。5.浅草観音堂、6.銀座の雨・・・当時の銀座の画は非常に珍しいとのこと。7.隅田川水神森、8.柳橋。9.根津神社、10.四谷荒木横町・・・人物の影などにみられる「あてなしボカシ」は素晴らしい。11.品川沖、12.上野公園。番外の《瀬戸内海明石の港》は珍しく明るく大きな作品であった。

 メインのウィンドウには、清親の光線画《柳原夜雨》と肉筆風景画《墨堤雪景》があったが、いずれもとても良いものだった。 光逸のその他の作品としては、藍摺の《本栖湖》、《箱根湖水》、森ヶ崎海岸》がお気に入り。

 (2009.10a) ブログ

 

江戸の幟旗: 松涛美術館


  「幟」という字は、「巾=布」+「認識」ということで、「目立つ旗」という意味らしい。戦国時代の武者の「旗指物」などは、敵味方の認識だけでなく、自分の武功を認識してもらって恩賞に与ろうという「実用性」を有するものだったのだが、平和で豊かな江戸時代になると、端午の節句や神社の祭りの際の「装飾」となっていったものである。

 今回の展覧会は北村勝史、鈴木忠男、林直輝の500に達するコレクションから、ちょうど100本の幟旗を選んで展示されている。

1.無地、幾何学文: 《三色旗》、《紅色旗》、《市松》など単純なデザインのもの。

2.波: 《破軍星》の上部には北斗七星、《波に兎》も素晴らしい。

3.龍: 《双龍》が二対出ていたが、いずれもダイナミック。左が下り龍、右が昇り龍。龍は雨をもたらす大切な神。下り龍は春、昇り龍は秋の絵柄である。

4.登龍門: 《登竜門》が5点も出ていた。これは明治時代以降に鯉のぼりの源となった絵柄。

5.鍾馗: 鍾馗は科挙の試験に落第して、絶望して死んだ男なのに、このように幟に飾られているのは皮肉なもの。

6.金太郎と桃太郎: 金太郎の幟は多いが、桃太郎のは少なかった。

7.武者: 《神功皇后》では、皇后が産んだばかりの後の応神天皇を抱く武内宿禰が描かれた見事な絵。

8.中国: 《趙雲》は三国志より。

9.説話: 《民の竈》では、古代の仁徳天皇と江戸時代の農民の取り合わせがユーモラス。

10.福神と風俗人物: 見慣れた《七福神》など。

11.童子: 《郭君子》は中国の童子たち。

12.動物: 《十二支》の動物が、団扇や扇子に描かれた素晴らしい幟。《桐に鳳凰》も美しかった。

13.縁起物: 《菖蒲》や《梅》など。

14.文字: 《八幡宮》のような立派な文字は、霊性を帯びている。

15.内幟: 屋内に飾られたもののため小さいが、色が良く残っていた。なかでは《碁盤忠信》が印象的だった。

(2009.9a) ブログ

 

シアトル美術館所蔵日本・アジア美術名品展: サントリー美術館


  「美しきアジアの玉手箱」という副題の展覧会。玉手箱というのは《浦島の手箱》の名で知られる鎌倉時代の漆工の名品《浦島蒔絵手箱》。蓋裏には、これから箱を開けようとする浦島太郎の困った顔。亀のいたずらそうな目も面白い。竜宮城もしっかりと彫られている。外表はもちろん亀甲文。

 中から出てきた宝物のナンバーワンは本阿弥光悦書・俵屋宗達画による《鹿下絵和歌巻》のシアトル本。長大なシアトル本は開いて見られるようになっているのでじっくりと眺めた。初めて見た鹿の姿はもちろんのこと、間の新古今集の歌も読んできた。こういう長い巻物は、国内の軸や短い巻物ではとても味わえない趣がある。

 その他の日本美術としては、遮光式土偶、車輪石、色絵楼閣山水図丸文鉢、長谷寺縁起絵巻、鹿島立神図、駿牛図、列子御風図、竹虎図、琴棋書画図、酒井抱一像。

 江戸時代の烏図は、シアトルの目玉作品とのこと。烏同士の争いなどのテーマはイマイチだが、それぞれの烏の羽や舌や脚の表現は巧い。金と墨の対比はちょっと激しすぎるが、空間が残っているので救いはある。

 葛飾北斎の《五美人図》、市川米庵、狩野晴川院ほかの《蜻蛉・蝶図》も良かった。

 中国美術、韓国美術にも優品が多かった。

(2009.8a) ブログ1 ブログ2

 

戦争画(中村研一その他): 国立東京近代美術館


  中村研一の戦争画《北九州上空体当りB29二機を撃墜す》は、晴れ渡る美しい空。錐揉みしながら墜落する米機。これに体当り攻撃した日本機。そして大空にはなお残る多数の米機。美しさと悲惨さが交じり合う印象深い画である。 

 清水登之《工兵隊架橋作業》と藤田嗣治《血戦ガダルカナル》にも再会した。

(2009.7a) ブログ

 

写 楽 幻の肉筆画 : 東京江戸博物館


  展覧会の副題は「日本・ギリシャ修好110周年記念特別展」と「ギリシャに眠る日本美術〜マノスコレクションより」の二つ。後者はギリシャの外交官グレゴリオス・マノス(1850−1928)が集めたアジア美術コレクション。それを収蔵しているコルフ島のギリシャ国立コルフ・アジア美術館に眠っていた写楽の肉筆画が2008年7月に発見され、わずか1年で東京で見ることができるのは幸運である。

第一章 日本絵画: 狩野克信・興信《狩野探幽筆 野馬図屏風模本》、狩野山楽《牧馬図屏風》

第二章 初期版画: 奥村政信《遊君 達磨一曲》、鳥居清忠《初代市川門之助》

第三章 中期版画: ・鈴木春信《見立菊慈童》、・鈴木春重(司馬江漢)《碁》、喜多川歌麿《歌撰恋之部 深く忍恋》、喜多川歌麿《風流六玉川》

 東洲斎写楽《四代目松本幸四郎の加古川本蔵と松本米三郎の小浪》・・・今回の「幻の肉筆画」。迫力ある役者大首絵と対照的な細い輪郭線でデリケートな色。扇として使われていたようで、剥がした跡がある。竹紙に描かれているため、細かな線が見え、角度を変えると金色に近く見える。四代目というのは五代目の誤りで、後世書かれたもの。

 類似の扇面図が三重県津市の「石水博物館」にあるとのことで、会場にパネル表示されていた。これは扇面のままであるが、これも写楽の作品なのだろうか。数年後にはわれわれの眼にも触れるとのことである。

第四章 摺物・絵本: 魚屋北渓《扇絵より立ち昇る龍》、歌川国芳《汐干五番内 其三、四、五》

第五章 後期版画: 歌川豊国《新吉原桜之景色 五枚つゞき》、菊川英山《風流夕涼三美人》、柳川重信《大坂新町ねりもの 水茎の神 かいでやもも鶴》、葛飾北斎《百物語 五枚揃》

(2009.7a) ブログ

 

平常展: 国立東京博物館


  ちょっと時間があったので、東博本館を覗いてみた。

1.浮世絵室: 肉筆画では有名な西川祐信《柱時計美人図》、喜多川歌麿の3枚続《大木の下の雨宿り》も面白かった。

2.江戸書画室: 酒井抱一筆《宇治蛍狩図》が急に現れて驚いた。ちょっと派手過ぎますね〜。

3.屏風襖絵室: 菱川師宣の重文 《歌舞伎図屏風》は凄いですね。右から、歌舞伎小屋の入口、舞台。左隻には舞台裏とそれに続く茶屋。一人立ち美人画の祖ともいわれる師宣もこのような大勢の風俗画を描いていたのだ。英一蝶の《雨宿り図屏風》は以前にも見ているが、梅雨時にはぴったり。

(2009.7a) ブログ

 

戦争画の相貌ー花岡萬舟連作: 早稲田大学会津八一博物館


  戦争画の相貌ー花岡萬舟連作 @早稲田大学會津八一博物館

 花岡萬舟は、軍部から正規に依頼された従軍画家と完全に違うラインの戦争画家である。花岡は中国語が達者で、早くから大陸に渡って中国人画家「陳張波」として日本軍の諜報・工作にも関わっていたとのことである。

 まず出て来たのが、天の岩戸を描いた《世界の黎明》、楠正行の討死を描いた《霜月に散る若桜》、出征兵送る幟や日章旗を描き込んだ《題名不詳=富士山》などである。この画家が生粋の国粋主義者であったことが見てとれる。


 内地へ帰った後には「忠愛美術院」を創設し、傷痍軍人の美術指導も行ったということである。このような花岡の心情を表す3点の画に遭遇した。

1.《銃後戦線》・・・内地から来た手紙から故郷の状景が蜃気楼のような幻視となって表れている。

2.《戦友愛》・・・1943年の大東亜聖戦報告丹心画展出品作。このような傷病兵に対するこの画家の関心はその後も続くのである。

3.《忠誠永へに闘う》・・・輪になって整列した兵士たちが戦友の遺骸を火葬する場面だが、立ち上る煙の中から、死してなお敵陣に切り込もうとする兵士の姿が浮かび上がる。

 今まで公開されることのなかった花岡の戦争画の一部が、やっとわれわれの眼前に現れた。歴史的な絵画である。一人でも多くの人に見ていただきたいと思う。

(2009.6a) ブログ

 

コレクション展: 名古屋市立美術館


  先週までやっていた「視覚の魔術ーだまし絵」は東京のBUNKAMURAに移動しているが、「特集展示: コレクションの中の「だまし絵」?!」は本日が最終日。ここでのだまし絵は「トロンプ・ルイユ」だけでなく、やや広い概念でとらえていた。面白かったのは、三尾公三の《男と女のスペース》と北脇昇の《鳥獣曼陀羅》。

 2009年度名品コレクション展Tの中でのマイベストはリベラの《プロレタリアの団結》。ニューヨークの新労働者学校ののために制作された連作壁画「アメリカの中央パネル。総数21パネルのうちの8パネルが現存しているとのこと。この部屋でも左右に扉を持った壁に展示されており、全体像を髣髴とさせる。

(2009.6a) ブログ

 

コレクション展: 愛知県美術館

 ここでは企画展として「アーツ・アンド・クラフツ展」が開かれていたが、これは都美で見ていたので、久しぶりに常設の所蔵作品展をみることにした。

 版画部門に靉嘔の《グッドバイ・ムッシュ・ゴーギャン》が出ていた。さきほど名古屋ボストン美術館で観てきたばかりのゴーギャンの《我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこに行くのか》が、風にはためく旗のような形の画にレインボーカラーで描かれていた。

 この美術館の王様はクリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士》であるが、モディリアーニの《カリアティード》、ミロの《絵画》、ファイニンガーの《夕暮れの海T》、デルヴォーの《こだま》も良かった。サム・フランシス、イヴ・クライン、ジョージ・シーガル、ステラ、中西夏之の良い作品も展示されていた。

 平田あすか、藤井達吉、熊谷守一なども楽しめた。

(2009.6a) ブログ

 

ノリタケデザイン100年の歴史: 名古屋ボストン美術館

 1904年、名古屋市則武(ノリタケ)に創設された洋食器会社の100年展。

 明治から昭和初期の陶磁器を「オールドノリタケ」というそうだが、それほど古いもののようには思えない。輸出用が主力だったようで、最初は日本風であるが、すぐにヨーロッパ風、アメリカ風など客の好みに合わせて作っていったようである。

 アールヌーヴォー・アールデコ風のもの、フランク・ライトのデザインのもの、ラスター彩のものなどが印象的だった。

(2009.6a) ブログ

 

日本美術の愛し方: 徳川美術館

 企画展「日本美術の愛し方」では、青磁、水、遊楽図屏風、動物の4つがテーマ。

 青磁としては龍泉窯の《青磁算木形花生》が翡翠色がマイベスト。水のテーマでは応挙の《鯉亀図風炉先屏風》が良かった。

 今回の展覧会の華はなんといっても《遊楽図屏風(相応寺屏風)》である。野外の遊楽図が邸内の遊楽図へと変化していくことを示す美術史上重要な屏風である。
題はて面白かった。

 動物のセクションでは森祖仙の猿がベスト。

 蓬左文庫の展示は、七夕と近代の詩歌。楊州周延の七夕の浮世絵《千代田之大奥》がお気に入り。

(2009.6a) ブログ

 

日本の美と出会うー琳派・若冲・数奇の心日本橋高島屋

 全国を巡回する細見美術館開館10周年記念展である。なかなか良い展覧会だった。

第1章 琳派の花づくし

 ・典雅なる京琳派:  俵屋宗達、本阿弥光悦、尾形光琳、尾形乾山などの有名どころの作品が出ていたが、良かったのは光琳の《柳図香包》くらい。むしろ深江芦舟の《若松に鶴図手焙》、渡辺始興の《白象図屏風》、中村芳中の《白梅小禽図屏風》、神坂雪佳の《四季草花図屏風》や《色紙貼付屏風》などが目立った。

 ・江戸琳派の洗練: 酒井抱一には良品が多かった。ベストは《白蓮図》だが、肉筆浮世絵の《松風村雨図》、吉原大文字楼主に与えた《雪月花扇面画賛文台》、抱一がうけだした吉原の遊女「小鸞(しょうらん)」とのコラボ《紅梅図》も印象的だった。鈴木其一では大きな糸瓜のたらしこみが目立つ《糸瓜に朝顔図》がベストだが、《桜花返咲図扇面》も良かった。酒井鶯浦の「近江八景図巻」では《唐崎夜雨》の雨の表現が気に入った。

第2章 若冲・北斎と江戸絵画の世界

 ・若冲と自然へのまなざし: 伊藤若冲が8点も出ており、本展覧会の白眉である。中でも《糸瓜群虫図》には11種の虫や蛙が描き込まれておりおもわず覗き込む。配色も上品でべスト・オブ・ベスト。《虻に双鶏図》、《海老図》、《鼠婚礼図》、《群鶏図》、《伏見人形図》、《踏歌図》などのユーモアも楽しめた。若冲の大作《花鳥図押絵貼屏風》には鳥などの動きが見事に表現されていた。森狙仙《猿図》の毛描きも良かった。対決展でみた池大雅の《児島湾真景図》に再会した。

 ・京と江戸の遊楽:: 《江戸名所遊楽図屏風》、《江戸風俗図巻》、浮田一宸フ《やすらい祭・牛祭図扉風》、勝田竹翁の《観馬図屏風》などは気楽に楽しめた。出口にあった松浦屏風に似た《男女遊楽図屏風》も良かった。

 葛飾北斎の《夜鷹図》と《五美人図》は「北斎展」で見ているが、やはり素晴らしい。

第3章 数寄の美とかざり: 《時代不同歌合絵巻断簡》、単庵智伝の《梅花小禽図》、仲安真康の《虎渓三笑図》、足利義持の《騎駿人物図》、千利休の《利休消息『釜の文』》などの茶掛けは贅沢なものだった。志野茶碗 銘《弁慶》や根来亀甲文瓶子も味わいがあった。

(2009.6a) ブログ

 

上野伊三郎+リチ コレクション: 目黒美術館


  副題は「ウィーンから京都へ、建築から工芸へ」。今日が最終日。図録売り切れという話を聞いて、覗いてみた。

 章立ては、1.上野伊三郎・リチのウィーン、2.上野伊三郎と「インターナショナル建築会」、3.上野伊三郎・リチの京都、4.建築から工芸へ。

 ウィーン生れのリチは工芸学校の卒業生であるが、デザインが巧い。プリント模様は「リックス文様」といわれ高い評価を受けていたという。リチの水彩《ヨーロッパ最後の港》には、結婚相手の故郷、日本に旅たつリチの心情が表れている。

 伊三郎の建築家としての活躍を示す雑誌や設計図・計画書が出ていたが、雑誌にリチの画が載せられているなど、京都における二人の協力関係がしのばれる。リチのデザイン能力は素晴らしく、プリント服地や飾箱などにもその才能が発揮されていた。食堂・バー・貴賓室・レストランのデザインもリチが積極的に関わっていたようで、《日生劇場レストラン(アクトレス)》壁画の一部も展示されていた。

 素晴らしい国際結婚の見本。アーティスト同士の協力。こういったものが良く理解できる展覧会だった。

(2009.5a) ブログ

 

第3回菊池ビエンナーレ展: 菊池寛美実 智美術館

 副題は「現代の陶芸の今」となっている。今回は、全国から313点の出品があり、53点が入選した。大賞は、山口淀の《窯変銀扁壷》、優秀賞は、西田宣生の《碧の器》。奨励賞が5点。いずれも素晴らしいが、それ以外の入選作もそれぞれ特長があって面白かった。

(2009.5a) ブログ

 

山口伊太郎遺作 源氏物語錦織絵巻展: 大倉集古館

 「天上の織物」という副題がついている。西陣織で作った源氏物語絵巻。西陣の織屋の主人が70歳になって突如はじめた「織道楽」。全体で37年間かかった。平成13年までに4巻中3巻が完成し、ギメ国立東洋美術館に寄贈されている。

 伊太郎は平成19年に105歳の天命を閉じているが、そのときには第4巻も織り上がりを待つだけとなっていたという。今回の展覧会ではその第4巻も併せて展示されていた。

 錦織絵巻の実物は色鮮やかでとても素晴らしい。まるで帯のようである。これは復元ではなく新しい美術表現としてとらえられるべきものである。

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板谷波山を巡る近代陶磁泉屋博古館分館

  板谷波山は、東京美術学校彫刻科で正規の美術教育を受けた陶芸家で、陶芸家の社会的地位を高め、日本近代陶芸の発達を促した先覚者である。波山の作品には青磁、白磁、彩磁などがあるが、いずれも造形や色彩に完璧を期した格調の高いものである。

 波山の独自の創案によるものに葆光釉(ほこうゆう)という釉がある。これは、器の表面にさまざまな色の顔料で絵付けをした後、全体をつや消しの不透明釉でおおうものである。今回は葆光彩磁として重要文化財の《珍果文花瓶》が出ていた。

 同時代の陶芸家としては、真葛焼きで有名な初代宮川香山の作品が沢山出ていた。

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片岡球子展: 日本橋高島屋

 片岡球子は昨年103歳の天命を全うした。これはその一周忌の追悼回顧展である。

 今回の展覧会は、1.自己の個性を確立するまでの初期の作品、2.火の山に挑む−特に富士山、3.面構−人間性の探求、4.新たな主題−裸婦の4章に分かれている。

 17年ぶりで見たが、そのエネルギーに圧倒された。

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現代の水墨画展: 練馬区立美術館

 近代以降の日本絵画の歴史は、極言すれば「水墨の衰退史」ともいわれていたのに、ここに至って地殻変動が起こってきたように感じられる。

 富山県水墨美術館は、開館の翌年の平成12年に「現代の水墨画」を開催し、3年に一度を目途に同名の展覧会を開催してきており、今回が3回目で練馬区立美術館との共催の形で開かれている。

 会場にはこれは今までの水墨画とは違う!と呻らせる作品が沢山並んでいた。現代美術における墨の表現の新たな可能性を信じて頑張ってきた画家や美術館の努力が花開きつつあるといっても良いのではなかろうか。

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不折の愛した龍門二十品台東区立博物館

  中村不折は画家であるとともに書道家であり、また中国美術品のコレクターとしても有名である。台東区立書道博物館では、本館に素晴らしいコレクションを常設展示しているが、記念館では企画展が開かれ、中村不折記念室も置かれている。

 今回の企画展は「不折の愛した龍門二十品」である。後学のために観にいってみた。

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neoteny japan上野の森美術館


  全国を巡回している個人コレクション展である。タイトルは「幼形成熟」のことで、「性的には成熟しているが、精神的には幼いままである」ということ。アニメ、漫画、ゲームなどは「ネオテニー文化」とよばれるが、日本の現代美術はこれらに率いられているということなのだろう。

 主な出品作家は会田誠、池田学、加藤泉、加藤美佳、鴻池朋 子、小林孝亘、須田悦弘、束芋、天明屋尚、奈良美智、名和晃平、町田久美、村上隆、山口晃。

 全体として、最近のわが国の現代美術はなかなか元気であることが実感された。

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