展覧会のサブタイトルは「松園と美人画の世界」。 章立ては、下記のように分かりやすいが、実際に見ていくと、東京の粋、京都の雅、大阪の情という地域的な差と女性の個性の表現という時代的な差はそれほど明確にされているわけではない。美人画の系譜を念頭におきつつ、それぞれの画家の作品を楽しんでいくことになった。
T.東京の近代美人画ー粋とロマン
○池田輝方の《お夏狂乱》・・・清十郎の死を知って狂乱するお夏の眼。《幕間》・・・江戸寛政期の河原崎屋と大正期の歌舞伎座の女性たち。
○山川秀峰の《春雨の良い、時雨降る日》・・・すっきりとした色調で若い女性とすこし歳をとった女性を季節で描き分けている。
○鏑木清方の《二人美人図》・・・美しい着物の柄。
U.上村松園の世界
○《紅葉可里図》・・・紅葉と幔幕の青の対比が素晴らしい。その幔幕を持ち上げてでてくる女性の着物の美しさ。そして置かれた扇子がものをいう。今回の松園のベスト。
○《桜がり図》・・・まるで鈴木春信の錦絵。京都の画家にも浮世絵の影響が及んでいる。
○《かんざし》・・・水野美術館の名品。宝船の簪をまじまじと見入る娘。そういえば、最近では、簪(かんざし)と笄(こうがい)の違いを知らない女性が増えてきた。帯の下に覗く鹿の子が巧い。
○《化粧》・・・めずらしいヌード。湯上りの女性が、手ぬぐいを膝に掛けて化粧瓶を手にしている。
○《花》・・・桜が散ってくる中、3人の女性が年齢順に並んでいる。日傘の差し方にも年齢差が出ている。UVカットが必要なのは中年女性、もう顔の一部しか描いてもらえない。
○《美人観書》・・・膝に置いた書物を眺める女性の目。これは知性が感じられる美人中の美人。
○《志ぐれ》・・・水野美術館のおなじみの画。雨の中、傘をさし、身体を傾け、裾を押さえている姿が艶かしい。紅葉散る秋の情景。
V.京と浪花の女性表現
○伊藤小坡の《つづきもの》・・・女性は朝食の準備しながら新聞を読む。これは大正時代も現代も変わらぬ姿。女性ならではの画題である。台所の描写が細かい。
○菊池契月の《朱唇》・・・格調高い女性像。朱唇皓歯という美人の形容そのもの、《早苗》・・・白描による疲れた田植え女の姿。
○北野恒富の《鏡の前》↓・・・高崎で見た《暖か》と対をなす。着物の黒、帯の赤、着物の模様の飛天の目立つすらりとした女性。襖の縦と横の線が画面を分割している。デカダン的な雰囲気もある作品。
○木谷千種の《おんごく》・・・格子越しにおんごく行列の中の子供を見つめ、亡くなった弟を偲ぶ象徴派的作品。素晴らしい画。
○広津多津の《おしろい》・・・首筋に塗られたオシロイが目をひきつける。鏡を覗く目線も真剣である。全体のやわらかさが良い。
○竹久夢二の《星まつ里》・・・夢二の世界は、わが国の美人画の系譜を超えている。
○中村大三郎の《黒衣女人図》・・・黒の洋服、赤い椅子。お見合い写真のようだ。
さらに、三木翠山の《美人図》、甲斐庄楠音の《秋心》、島成園の《おんな》、 岡本神草の《口紅》、 寺島紫明の《爪》などはデカダン的な迫力がある。
W.戦後の女性像
○寺島紫明の《姉妹》・・・きりっとした顔立ちの姉妹。見つめるさきには?
○梶原緋佐子の《花》の立派な体格の中国服女性は見事。
○守屋多々志の《ウィーンの六段の調》・・・ブラームスとお香や琴との不思議な取り合わせ。夢か現実か分からない。
○伊東深水の《長夜》の雪洞にとまるコオロギを見ている女性、《晴日》のタッチの異なる着物を着た二姉妹、《菊を活ける勅使河原霞女史》の凛とした姿はいずれも美しい。
○森田曠平の《大原女三題 里だより》・・・個性的な女性像。美人画という範疇を超えている。
○石本正の《のれん》・・・いつもの舞妓だが、着衣像で、厳しい顔つきは個性をしっかりと表している。
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